154.20年先を背負う生徒たち

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市川学園理事長・学園長 古賀正一

日本はよく課題先進国といわれています。少子高齢化と人生100年時代の課題、AIが人間の能力を超えるといわれるシンギュラリティの時代(実際はAIが人間を全て超えることはない)への対応、複雑な世界情勢のなかで、欧米だけでなく中国やインドなど次の大国との向き合い方、地球環境とエネルギー・食糧問題、福祉や教育の充実と財政赤字など課題は山積です。日本がこれらの課題をうまく解決できれば、課題克服トップランナーとして世界のモデルにもなれます。

実は課題に本当に向き合わなければならないのは、今から20年後に中核になる人材即ち2030~2040年代に活躍する今の中高生なのです。今後の教育の重点の思考力・判断力・表現力の重視は当然として、広い教養と深い専門力を磨き、目標への限りない情熱、未知のことに挑戦する意欲、困難を克服しやり抜く力をもち国際的に活躍できるリーダーの育成が急務です。学園では生徒の将来を考えつつ、授業・行事・部活以外に自主的参加のゼミや国内外のイベント参加を奨励し推進しています。生徒の参加意欲こそが、教育成功の鍵なのです。

さて将来の重要な課題のうちAIと中国をテーマに、本校特別顧問の寺島実郎先生(日本総合研究所会長、多摩大学学長)を迎えてのゼミが、5月30日放課後行われました。

昨年11月に、高校2年生全員(当時)に行った寺島先生の講義の第二ステージとして、希望者による指定課題の研究・発表(1チームは2人~7人)と寺島先生の講義という形をとった新しい形式のゼミです。

今回の具体的な課題は、

テーマA:「AIが人間の能力を超えると言われる未来に人間はどう生きるのか」
テーマB:「中国のGDPは現在日本の約3倍、将来8倍になると予測される中国とどう向き合うのか」

とし、A、Bについて各4チームが、真剣な調べ・学び・検討を経てまとめた成果を、それぞれ5分の時間で発表しました。その後寺島先生が、的確なコメントを含めた講義を行いました。

各発表は独自の視点で問題点に言及しており、20年後社会の主役になる生徒たちの真剣さが伝わる充実したひとときでした。まさに不確実な世界の将来の課題を、具体的に設定し、自ら調べ考え学び発表するという「アクティブ・ラーニング」の統合的実践そのものでした。

以下に当日の詳細を記します。

生徒のプレゼンテーションのテーマと発表内容ひとこと要旨

A:AIテーマの4チームの発表から

  1. 『カントの「純粋理性批判」に基づくAIと人間の違いの考察』
    人間の持つ感覚は理性、悟性、感性があるが、感性こそが人間がAIに勝る点だ。理性(クイズ回答ロボット)、悟性(グーグルの猫のような画像認識)には、AIをおおいに活用すべきである。
  1. 『AIと創造性:創造的仕事とは』
    無から有を生む新発見だけでなく、組み合わせの創造が重要。基準のないことの判断は人間しかできない。基準は人間がつくる。
  1. 『Human out of the loop~今後における人間とAIの関係』
    スーパーオートメーション化が進む中で、人間が制御の輪からはずされる危険性がある。ロボットドクターによる最適治療など医療面でのAI活用には、人間の関与と説明責任が不可欠である。
  1. 『AIが発達した経済における「里山」の可能性』
    都市はAIが進み,ロボット活用も増える。里山こそ自給自足で人間らしい生活が残る。里山のオープン化で都市と里山との連携・交流を深めたい。

B:中国テーマの4チームの発表から

  1. 『日本の強み~ブランド力』
    お米、日本食の売り込み、日本文化のブランド化。中国内の格差解消のため日本米を現地で生産する。中国と良好な文化関係構築。
  1. 『ITから見る中国と日本の未来像』
    キャッシュレス化など中国はIT化が一足飛びに進んでいる。中国はプライバシー保護が弱く問題あり。無理に同じ土俵でITを競う必要はない。ものづくりなど、日本の得意・特色をベースに競争すべきである。
  1. 『日本の意識改革~日本を国と民から変えてゆく』
    反中国から親中国へ、国民単位で友好関係を築く。経済の緊密連携は不可欠である。受動から能動的活動へ。人材の移動、地方活性化、アジアからの労働人材の受入れなどを積極的に行う。
  1. 『日本外交のこれから~相互理解の道へ』
    中国からの留学生の倍増と文化交流イベントなどで、日本のよいイメージを中国の若者へ浸透させる。(メディアに左右されない交流)大学間交流をより活発にする。

 8つのプレゼンを受けての寺島先生の講義要旨~AIやICTの今後と人間

  1. 今やスマホやAIスピーカーに何でも聞く時代。お任せ人生でよいのか。自分の頭で考えることが極めて大切な時代である。(脳力を鍛える)
  2. 今年のダボス会議(世界経済フォーラムが毎年1月スイスのダボスで開催する年次総会。世界の抱える課題の討議で、各国首相、企業CEO、学者などが参加)での大きな話題は、「デジタル専制」(Digital Dictatorship)であった。ビッグ5といわれるGAFA+M(グーグル、アップル、フェースブック、アマゾン、マイクロソフト)5社の株式時価総額約383兆円、中国のテンセント、アリババの2社で約101兆円、合計約484兆円。日本のトップ5社(トヨタ、日本電信電話、NTTドコモ、三菱UFJ,ソフトバンク)の合計約64兆円。
  3. IT×FT(金融工学)の第4次産業革命は、データーを支配するものがすべてを支配する時代(データリズム)である。又投資家が夢にお金を出す時代である。AIスピーカやIoTおもちゃが、各種データを集めて、個人情報を把握し、プラットフォームにつながる。EUは真剣で、GDPR(一般データ保護規則)を制定し、企業に個人情報の厳格な管理を求める。海外違反企業への罰則が厳しい。
  4. 人間とは何か、21世紀の生命科学の進歩(DNA、ゲノム解析)に基づき、人類史も再考される時代。ヒトとチンパンジーのDNAの差は1.2%。ヒトよりチンパンジーが優位なこともある。(瞬間画像認識力)
  5. 人間とAI、AI機械との違い~認識(目的手段合理性)だけでなく意識(愛、感性、宗教)があることが人間の特徴。宗教は大きな存在への意識、自分を律する心であり、宗教を持つことは人間の特色。仏教思想の九識

    ~中国との向き合い方

  6. 文化や教育の交流重要。その一環としてEUエラスムス計画(EU内の学生・教員の流動化、共同カリキュラム開発、大学間単位互換など)を参考に、自分も日中韓キャンパス交流、単位互換など計画してきたが、理系はともかく社会科学系はなかなか進まない。歴史認識の違い、特に近現代史のベースの違いなどでかみ合わない部分があり、更なる努力必要である。日本では近現代史の教育が浅いので、議論もできない。若い人は、グローバルヒストリーの視点で、近現代史をしっかり学び、中韓の学生と議論を出来る基盤をつくらねばならない。教育も近現代史を手厚くする必要が有る。
  7. 江戸時代は、中国からの自立(儒学、国学、蘭学並立)のなか、また明治~昭和、戦中・戦後を通じ中国に対するコンプレックス(劣等感と優越感)があった。
  8. 中国は共産党一党独裁国家であり、変化のスピードがあまりに早い。技術革新の段階を踏まずに、蛙飛びのように一気に最先端技術を取り入れ、最先端社会になる。今や都市はキャシュレス社会になっている。中国人が、日本に来て現金が必要なので、20世紀にもどったようだと表現したという笑い話もある。未来が不確実な時代だからこそ、常に新しいことを学び考え、生涯学び続ける『第三教育』の力がますます重要になるでしょう。本学の建学の精神が普遍性を持つ所以です。

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