57.人間学のすすめ

なずなメッセージ

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(市川学園本館4階より見たスカイツリー)

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人間学のすすめ

理事長・学園長
   古 賀  正 一

2010.6.1

 日本の政治が混迷しています。一国のリーダーの首相の言葉が軽く政治が信頼されない、まさに危機に立つ国家です。政治のリーダーにとって大切なのは、まず多くの情報を得て、正しい判断をすること、そしてその判断に基づいて信念を持って決断をすること、更に決断したことを、周囲を説得し合意形成し果敢に実行することでしょう。判断力、決断力、実行力のあるリーダーが求められる昨今であり、リーダーの資質が問われています。

 リーダーは、一国の首相から大会社の社長、学園の理事長・校長、小さな組織体の代表、グループの長まで、およそ組織にはリーダーが必要です。リーダーのあるべき姿は、昔から語られ多くの手本があります。我々教育にたずさわる者は、常に次代のリーダーの養成を考えねばなりません。リーダーの資質は、先天的なものもありますが、教育と体験、知識だけでなく心の強さが必要で、一朝一夕では育ちません。すでに優良企業では、リーダーに求められる素養のため、古今東西の古典を学ぶ教育即ちリベラルアーツ(教養)教育を課しています。基礎は家庭のしつけ、学校教育から始まり、職業に就き、仕事を通じ学び、多くの厳しい試練を経て資質が磨かれます。小さい頃からの集団生活でもまれることが大切です。約束を守る、人に迷惑をかけない、コミュニケーション力、人間関係力、マナー、チームワーク、人の役に立つ志などまさに徳育や人間教育が重要です。生徒会やクラブ活動におけるリーダー的役割や切磋琢磨も人を鍛えます。学校において知育とともに徳育、広く人間教育が重要視される理由です。

 当学園は、創立時からイギリスのリーダー養成の全寮制パブリックスクール(イートン校、ハロウ校など)を模範とし、自由と規律を重視し、立派な紳士(および淑女)の養成をめざしてきました。特に自ら学ぶ力と自立力を重視しています。そのため自由の風土とともに規則を守る生徒指導に力を入れてきました。また高校1年生には、クラス単位の寮生活を体験させ、同じ釜の飯を食うことを通じ、友をよく知り生活規律を学ぶことをしています。又道徳授業も充実させ、生徒会主体の挨拶運動や清掃、ボランティア活動にも力をいれています。土曜講座では、その分野の一流人の話を聞くことにより生き方を学ぶことが出来ます。クラブ活動も人間教育の一環ととらえています。

 次世代のリーダー育成には、家庭、学校、会社、地域などあらゆる場で大人がしっかり見本を示さなければならない時です。大人が道徳を重視し、また如何に生きるかの人間学を自ら学ぶべきと考えています。

 人間学は西欧では、Anthropologyとして人間の本質解明の哲学的研究・学問であり、カントは、形而上学、道徳、宗教を統括する学として提唱したと言われています。日本では古来武士道や儒学を通じ自分を磨きよく生きるための学として実践されてきました。江戸時代の素読、四書五経の学び、私塾や藩校などでの学び,武道はじめ各種の道はすべて人間学です。人間学は、すべての大人特にリーダーである政治家、経営者、管理者、対人関係を主とする職業(教師、医者、弁護士、営業など)には必須です。人間学を如何に学ぶか、中国の古典(十八史略、論語、孟子、貞観政要など)、日本の古典(武士道、言志四録など)、西洋哲学、米国の大衆哲学や人間関係に関する本、随筆、小説など広い読書が必要です。経営学や人物学、生き方の本もすべて人間学の本です。しかしもっとも大切なのは、事上練磨で厳しい仕事の達成、新しいことへの挑戦、困難や逆境の克服、難しい人間関係など実際の体験から学ぶことが大切です。又宗教、芸術、自然、旅などあらゆる出会いや縁からも学ぶことも多いと思います。魅力ある人間になる学び、生老病死の哲学、すべて人間学です。日常の行いでも、挨拶、気配り、迷惑をかけぬ、感謝の気持ち、小さな善行の実践などまさに人間学です。我々大人が子供に範を示すことを通し次世代のよきリーダーを育成せねばならないでしょう。

 中国の唐の名君太宗皇帝と臣下との問答集である貞観政要(守屋 洋訳)は人間学として有名です。リーダーの姿勢としてのいくつかを下記します。小職も日々実践し、少しでも近づくべく努力しています。括弧は小職コメント。

1、まずわが身を正す(自分に厳しく人にやさしく)

2、人の意見に耳を傾ける(傾聴の精神、聞き上手)

3、人材を登用する(人を良く見る、人間通になる、美点凝視)

4、自己のコントロール(自己抑制、良い習慣、健康管理)

5、安きに居て危うきを思う(順調なときにも危機感を)

6、態度謙虚・言葉慎重(威張るな)

7、最初の緊張感を持続する(初心大切に、マンネリになるな)

 資源のない日本は、人材が宝です。グローバル時代に如何に生き、世界に貢献できるかが21世紀の課題です。骨太なタフな人材を育てるためには、学校も家庭もまず大人自らが子供に範たるリーダー的行動をとることが、将来の人材を育成する確かな道と信じ、努力したいものです。

 『政治屋(ポリティシャン)は次の選挙を、政治家(ステーツマン)は次の世代を考える。(ジェームズ・F・クラーク、19世紀米国の牧師)』

・・・日経10-5-28朝刊