白神山地 体験学習

市川学園と白神山地のつながり

白神山地のブナ林は、貴重な動植物が分布する極めて価値の高い生態系を有する地域と認められ1993年12月に日本初の世界遺産(自然遺産)として登録されました。今日では“世界最大の原生的なブナ林”として多くの人たちに知られるようになりました。

さて、白神山地は壮大なブナ林をはじめとする植物学的な見地からは、観光や登山の対象としてもほとんど注目されることはありませんでした。しかも、一般の人が入り込むことのなかった未知の秘境であったにも拘わらず、1970年代頃から登山の世界では白神山地が少しずつ知られるようになってきました。その端緒を開いたのが市川学園山岳OB会です。佐藤勉氏(高校8回卒、昭和28年3月)、坂本知忠氏(高校17回卒、昭和40年3月)をはじめ、その後も数多くのOBが山行を重ね、白神山地の主要な尾根筋や沢筋は市川学園山岳OB会によって踏破されてきました。それらの記録はまとめられて日本山岳会会報「山岳」第73号(通巻131号)において1978年12月に発表されました。因みに「山岳」は日本の登山界で最も古い伝統と権威のある山岳雑誌です。また、「白神山地・本州最後の秘境」と題する一冊の本となって1983年に出版【佐藤 勉、坂本 知忠 共著/現代旅行研究所(株)刊】され、白神山地を世間に紹介する役割の一端を担いました。この本は、目本図書館協会の推薦図書にもなっておりますが、白神山地について書かれた最初の本です。ちょうどその頃から、青森県と秋田県にまたがる世界最大のブナの原生林の真っ只中を通る青秋林道建設反対運動が起こり、保護活動の世論が世界遺産に繋がっていきました。世界白然遺産に登録された後は、世界遺産の核心部の周辺地域に以前より多くの観光客や登山客が入山するようになりました。本校の白神山地体験学習のきっかけは、元朝日新聞記者で青森市に本社がある青森朝日放送(ABA)の常務だった川村昭義氏(14回高卒、37年3月)が、記者時代から知り合いだったマタギの工藤氏から、佐藤さんら学園OBとの交流話を聞き、2001年12月に来校、「白神山地を世に紹介し、後の世界遺産指定の遠因を作ったのは佐藤さんら学園の先輩たち。後輩の皆さんにも自然の大切さ、素晴らしさを肌で感じ、合わせて先輩たちの足跡を体験して欲しい」と呼びかけたことです。

川村氏は記者時代環境庁(現環境省)を担当していました。その当時、工藤さんは自然を守るため青秋林道建設反対運動をしており、川村氏の取材を受けていたのです。

工藤さん等マタギの人達と市川学園山岳OB会のメンバーとの交流は、白神山地の山中の赤石川の堰堤で、偶然に会ったことから始まりました。1970年6月のことです。その時、後に津軽のデルスウと呼ばれる工藤成元氏が「何でこんな山の中に来たのか」と尋ねると、坂本知忠氏が「日本全国の厖大な登山記録をすべて調査した結果、白神山地が一番登られていないことを発見したからだ」と答えたそうです。

第一回の体験学習は2002年8月に行われ、その時の模様はABAで放送され、青森の人々も学園と白神山地の「絆」を知ることになりました。

いま、自然の状態で残っている豊饒な世界のブナ林の成り立ちや環境、その中で白然と人間との調和を活かしているマタギの生活を通し、自然を守ることの大切さ、白然と人間との調和を是非学ばせたいとの意をもって、白神山地へ生徒たちを送ることになりました。2002年夏に中学3年生・高校1年生を対象にした白神山地学習会の第1回が実施され、今年は第3回目の実施となります。

なお、生徒達が2年にわたりお世話になったマタギの工藤光治氏は2003年ご来校いただきました。また、OB山岳部の佐藤 勉氏は2003年度の土曜講座に講師としてお話をいただきました。2004年も、第Ⅲ期(9/18)の土曜講座の講師をお受けいただいております。

白神山地(世界遺産)自然教室2004年度
白神山地自然教室2004アルバム
白神山地自然教室2005アルバム
白神山地(世界遺産)自然教室2003年度
白神山地(世界遺産)自然教室2002年度
白神山地を知るためのウェブサイト

白神山地(世界遺産)自然教室

2004年度(2004/8/9~8/11)

参加者: 中3:10名、高1:1名、高2:2名

引率者:市川学園生物科教諭2名(北川、庵原)

ガイド・解説:マタギ(工藤光治さん、工藤茂樹さん)

今年も天候に恵まれ、種々貴重な体験が出来た。

2日目(8/10)

今年は全員が大川タカヘグリ峡谷への沢登りを行った。冬期に大雪が降り積もる白神の沢は雪解け時の雪崩で、毎年その様相が激変する。昨年背が立たず泳いで渡ったせき止め湖は、今年はわずか膝下までの穏やかな流れに一変していた。昨年も参加した生徒はその変貌ぶりに驚いていた。タカヘグリは切り立った断崖が、両側にほぼ垂直にそそり立つ非常に狭い沢の回廊で、ここを通過するのにいくつものヘツリ(水際岩場の水平移動)があり、平均すると一人一回ほどは沢に投げ出された。その間、マタギの歴史や動植物の話しに耳を傾けながらひたすら体のバランスを取るのに努めた。ほとんどの生徒がずぶ濡れになって、上流にたどり着いた。帰路、工藤さんが一抱えもあるブナマイタケを3株みつけ、そのうち1株を持ち帰り、炒めて食べたが、木の香りが極めて強く、なめし皮のような食感だった。

3日目(8/11)

3つある暗門の滝への道が崩壊していて、1つの滝までしか行くことが出来なかった。帰路、工藤さんがブナ林の中でマムシを捕らえた。マムシにまつわる話の中で、食料にもなることがわかると、一人の生徒が食べてみたいと言い出した。
工藤さんは、シュッ、シュッと音を立て鎌首をもたげて怒っていたマムシの頭をはねると、首から尾に向けて、一瞬のうちに皮を裏返しにむき、赤裸にしたマムシを枝に串刺しにして生徒に差し出した。その動作があまりにも自然だったので、多くの生徒は目を背けることもなく見入っていた。河原でたき火をし、途中、採集したタマゴタケも一緒に焼いて、皆で一口ずつ食べた。骨も柔らかく川魚のような香りと味がした。中にはショッキングだったのか、口にすることなく遠く離れていた生徒が3人程いた。

マタギの生活

世界遺産白神山地というと人跡未踏の地を思い浮かべる方も多いと思うが、白神には大昔からのマタギの踏み跡やナタ目が谷や尾根の奥深くまで縦横に残されている。そこにはブナをはじめとする植物を中心に据えた、ヒトを含めた様々な生き物の相互作用が今もダイナミックに展開している。その文脈の中で、マタギは白神の自然をことのほか大切にしている。それは白神が今もマタギにとって生活の恵みの場だからだということを、生徒が肌を通して感じ取った貴重な体験だった。

2003年度(2003/8/4~8/6)

参加者: 中学生:11名、高校生:11名

引率者:市川学園生物科教諭2名(北川、庵原)

ガイド・解説:マタギ(工藤光治さん、工藤茂樹さん)

8/4

白神山地青森県側入り口西目屋村ビジターセンターで、資料見学と映画白神山地「いのち輝く森」鑑賞。大画面の迫力ある映像は何度見ても飽きない。

8/5

出発時、雲が低くたれ込め、ぽつぽつと小雨が降り始めた。山に入り1時間もしないうちに、幸い全天青空に覆われた。
中学生グループ(10名)は大倉森山の縦走に向かった。世界遺産境界線沿いの尾根にあたる。マタギガイド舎の代表工藤さんの従兄弟の工藤茂樹さんがガイドをしてくれた。ブナの巨大木マザーツリー、クマのかみ痕などを見た。
高校生グループ(高校11名+中3 1名+引率者)は白神マタギ舎代表工藤光治さんがガイド。大川を遡り、「タカヘグリ」と呼ばれる断崖絶壁が続くところへの沢登り。生徒たちは初めてはく草鞋にもすぐに慣れ、ピッチをあげて進んだ。昼頃に何年か前に生じた岩壁の大崩落帯と、それで出来たせき止め湖に達した。ここを通り越すにはほぼ垂直に立ちはだかった岩壁の水際を岩登りの3点支持の基本に従ってへつって(水際の岩場を水平に移動する)ゆかねばならず、失敗して落ちると水深4m程の渓流の冷たい水に飲み込まれる。そこで、工藤さんと相談し、ここで引き返すつもりで生徒たちに休憩・水遊びなどをさせていたところ、冷たい水にも慣れ、一人の生徒が岸辺で泳ぎ始めた。これに刺激を受け、生徒たちは次々と水に入り始めた。これでほとんどの者は泳いで、また、工藤さん、ならびに水に濡れるのを極めて嫌う生徒1名そして泳ぎが不得手の引率者は岩壁をへつって、ついに全員がこの難所を乗り越えてしまった。工藤さんも、予想外の展開に大変気分を良くし、その後はそれまで以上に大変に熱のこもったガイドになったようだ。その先は、この難所故、これまで一般の人がここ何年も立ち入ることがなかったまさに圧倒されんばかりの絶壁に囲まれた沢の回廊が続き、胸までつかる渓流の渡渉も臆することなく「タカヘグリ」の終点まで達することが出来た。工藤さんの先導のもと、生徒たちは皆、探検的精神を十分に味わうことになったこの山行に感動をあらわにしていた。

8/6

暗門の滝という大きな3つの滝を登った。ここは一般ルートで道も大変完備していたが、途中多くの大きなイワナを見ることも出来た。

マタギの自然観

なによりも、大変天候にも恵まれたこともあり、山登りの感動の他にも、ニホンザル、シマヘビ、ヤマカガシ、そして、なんと正に交尾中のマムシ、渓流性昆虫、渓流特有の沢山のアヅマヒキガエル(あのイボイボのある大きいカエルを多くの生徒が可愛いと頬にこすりつけんばかりに抱き上げるのをみるのは意外であった)、カジカガエル、トウホクサンショウウオ、ニホンカモシカの死体(頭骨を持ち帰ろうと思ったが、工藤さんがこれは山の守り神であるということなのであきらめた)、巨大ナメクジ、カワガラス、キセキレイ、そして、多くの高山植物に出会う喜びを味わった。
また「何も特別のことをしなくてもいいのです。君たち一人一人が、身近なところで自然に優しく接し、それを大切にすることが、世界遺産としての白神の自然を守ることにつながるのです」という工藤さんの自然観にもふれ、大変有意義な山行であったと思う。

2002年度(2002/8/5~8/7)

8/5

白神山地の青森県側の入り口である西目屋村に着くと小雨が降り始めた。西目屋村のビジターセンターで映画白神山地「いのち輝く森」鑑賞。資料館で古い生活用具の見学。

8/6

強い雨が断続的に降るなか、雨具をつけ、大倉森山の縦走に向かった。ここは世界遺産地域の丁度境界線沿いの尾根にあたる。マタギガイド組合の代表工藤氏がガイドを引き受けてくれた。工藤氏は、随所で白神の歴史や植物・動物の話をしながら登った。途中、大きなナメクジに触れたり、クマに噛まれた道標を見たり、苦いキノコや酸っぱい木の実を口にしながら、白神の山を生活の場としている人ならではのガイドに皆、引きつけられた。
途中、その日の夕食のちゃんこ鍋の食材に山菜(ウワバミソウ,キクラゲ、ヒラタケ)の採集をした。

8/7

暗門の滝という大きな3つの滝を登る予定だったが、この日はたたき付けるような土砂降りの雨で、公式には滝へ向かう沢沿いのみちは通行止めとなった。しかし、工藤氏のガイドということで、特別計らいで、行けるところまで行くことになり、雨具をまとって出発した。沢沿いの路は、山の斜面から流れ込む小さな沢で小規模な土石流が発生して、大変歩きにくい道になっていた。普段の清流が、この日は濁流と化して、茶色の水が滝のように流れ、上流から流れた太い木の幹や枝が川岸に堆積していた。大きな沢が路に流れ込んでいるところで、大規模な土石流が発生していて、路は分断され、その先の渡る予定の橋も流されていた。これ以上は危険ということで、そこで引き返して、やや雨がしのげる尾根道に入って、キノコ採取や植物観察をした。
宿に帰り、工藤氏のスライドをみながら、白神の山やクマ撃ちの話、マタギの生活など様々な興味深い話に皆熱心に聞き入った。
この日の夜に弘前から夜行バスにのって翌8月8日早朝東京に無事帰りついた。

マタギ

工藤氏これまでに工藤氏自身が手に掛けたツキノワグマは70頭になり、仲間と一緒に殺したのを含めると400頭にもなるという。その他、ウサギ、リス、テン、山鳥、などを合わせると一体どれほどの動物たちの命を奪ったかわからないという。それまでは元気に山を掛け歩いていたもの達が、自分が弾を発射した瞬間に、突然に死に追いやってしまう。そうした動物達のことを思うと、今後我が身にどのようなことがふりかかってもかまわないという覚悟を持っているのだそうだ。その分、命の大切さを事の他十分わかっているつもりで、そうしたことを一緒に山に登り、話しをする中で、若い諸君に感じ取って欲しいと語った。生徒の感じとるものが多かったと思う。

白神山地(世界自然遺産)をしるためのウェブサイト
世界遺産白神山地 青森県自然保護課
にしめや 青森県西目屋村役場
白神山地を守る会 白神山地を守る会
世界遺産白神山地ってどんなとこ? 東北自然ネット
藤里森林センター 秋田県山本藤里森林センター