SSHの概要

SSHの概要

第3期のプログラム

本校は令和元年度にSSH第3期の指定を受けました。第3期の研究開発課題は「自分で自分を教育できる自立した研究者を育成するプログラムの開発」です。そのためには「論理的思考力」「コミュニケーション力」「表現力」「科学的な現象を発見する力」「課題を認識する力」の5つの力を育成することが必要であると考えています。そこで、これらの力の基礎をさまざまな教科の授業を通して身につけ、5つの力のすべてを必要とする課題研究に取り組むことで、自立的に研究活動を行える生徒を育成しようとしています。
  • 市川学園の第3期SSH
 

課題研究の取り組み

本校の課題研究は理系・文系の選択が決まった高校1年の12月から始まります。学年集会を使って課題研究の進め方を学んだり、教員と面談を行いながら研究テーマの設定に向けて自分の興味を掘り下げていきます。高2年になると「市川サイエンス」という授業で課題研究が本格的にスタートします。より具体的にテーマを決めるため、先行研究の調査を行い、研究のアイデアを「研究構想発表会」で発表します。そこでの指摘で修正を加え、実験に入ります。ある程度実験を繰り返したところで「中間発表会」でそれまでの結果をまとめ、さらに指摘された点を検討しながら実験を行い、最後に研究のまとめを「Ichikawa Academic Day」で発表します。
  • 課題研究のスケジュール


  • ポスター例

  • 論文例

生徒が主体的に活動を行い、自立して研究を行うことができるように、本校ではさまざまなサポートを行っています。

1. 少人数制で専門の教員による手厚いサポート

「市川サイエンス」はおもに2クラス合同で行います。「物理」「化学」「生物」「地学」「数学」「情報」の5つの分野に分かれて、それぞれ専門の先生の指導を受けながら研究を進めます。人数の多い分野については2-3人の先生が指導に当たります。一人の先生が指導する生徒は多くて10名程度です。

市川サイエンス実施人数と担当教員(2022年度)

曜日 クラス数 生徒数 担当教員数
月曜 2 58 物理3,化学2,生物2,地学1,数学2,情報1
火曜 1 42 物理2,化学2,生物2,地学1
水曜 2 84 物理3,化学2,生物2,地学1,数学2,情報1
金曜 2 72 物理3,化学2,生物3,地学1,数学1,情報1

2. 好きなだけ取り組める

「市川サイエンス」は5,6限に設定されています。帰りのHRはないため、授業時間に終わらなかった実験も引き続き放課後に取り組むことができます。また実験室はいつでもオープンなので、授業のない日も好きなだけ実験することができます。

3. 実験室で研究に取り組む

授業はそれぞれの分野で教室を分けるので、集中して研究に打ち込めます。物理・化学・生物・地学はそれぞれの実験室で授業を行うので、実験をしたいときにはいつでもできる環境です。実験で使う試薬は申請すれば購入することができます。また、SSHの支援により高度な実験機材もそろっています。

各実験室にあるおもな実験機器

実験室 機器
物理実験室 デジタルオシロスコープ・回転台・騒音計・分光器・テスラメーター・風速計・ファンクションジェネレーター・真空蒸着装置・粘性精密測定器
化学実験室 分光光度計、恒温乾燥機、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気炉
生物実験室 インキュベーター、遠心分離機、分光光度計、オートクレーブ、クリーンベンチ、サーマルサイクラー、ディープフリーザー
地学実験室 クールインキュベーター、標準温度計(0~50℃)、ふるい

4. 研究のポイントを示す

研究の進め方についてはそのポイントを押さえた「市川サイエンス課題研究評価基準表」があります。教員が生徒の研究を評価するときに使う表で、生徒にも公開しています。この表を見ながら研究を進めていくことで、評価の高い研究=質の高い研究を行うことができるようになっています。評価は生徒にもフィードバックし、自己評価と比較することで、研究を進めていく上で注意すべき点が分かるようにしています。研究のポイントを自分でチェックしながら進めることで「自分で自分を教育」しながら研究を進められるようになっています。

5. 発表の機会を増やしてモチベーションを高める

校内での発表の機会は3回あります。
6月 研究構想発表会:これから行う研究のアイデアをポスターで発表します
11月 中間発表会:それまでの研究の成果を口頭(スライド)で発表します
3月 年度末発表会:1年間のまとめをポスターで発表します

その他、多くの校外での発表会に参加することで、自らの研究を伝え、議論する力、「コミュニケーション力」が養われます。また、短いスパンで「発表会」という目標を設定することで、研究に対するモチベーションも上がります。

6. 「自分の研究」の意識をもつ

研究で必要な試薬・物品が生じたときには、物品購入理由書を書いて提出します。価格を調べ、購入理由も書いて、承認されて初めて購入することができます。申請書の作成を通して、生徒が自分自身の実験をより深く理解するとともに、研究に対して責任を持てるようになります。

7. 研究のルールを示す

研究のためならどんなことをしてもいいわけではなく、倫理的に許されない研究や危険を伴う研究は避けなければなりません。本校では独自のルールを設けて、倫理に則り、安全に実験ができるようにしています。またこのルールは国際的なコンテストに用いられているものをベースに作ったため、このルールに従って研究を行うことで、生徒は世界標準の研究ルールを身につけることができます。

SSHの成果

市川学園はSSHに指定される前は文系選択者の方が多く「文系の高校」というイメージでした。しかしSSHに指定されると理系選択者が徐々に増え、1期目の終わりには約半数、2期目には理系の方が多くなり、3期目では理系が6割を占め、指定前と理文の割合が逆転しました(図1)。
  • 図1 理系選択者の割合

理系選択者の増加によって、課題研究の全体のテーマ数も増加しました(図2)。しかし、初年度と比較すると最近では7倍以上に増えており、単純に理系が増えたからだけでは説明できません。理由の一つは個人で研究に取り組む生徒が増えたことにあります(図3)。グループでの研究は、お互い確認し合ったり分担をして研究を進めることができるため、安心して研究に取り組むことができますが、主体性は低くなりがちです。個人研究は、すべてを自分一人で引き受けなければいけないため大変ですが、しっかりと研究に向き合わなければ進めていくことができないため、研究分野について深く理解することができます。また研究者は基本的には一人一人が自分のテーマをもっているものであり、本来の研究活動に近い形になります。個人で研究に取り組む生徒が増えたことは、本校のSSHの目標にもつながることです。
  • 図2 課題研究のテーマ数

 
  • 図3 個人で研究に取り組む生徒の推移

課題研究の発表会は、校外でも数多くが開催され、希望すれば他校の生徒たちと研究を発表し合うことができます。またすべてではありませんが、優れた発表に賞が与えられる会もあります。本校生徒の外部発表件数と受賞数をまとめ(図4)ましたが、外部発表件数は生徒の研究に対する意欲を、受賞数は研究の質をある程度反映していると思われます。ただ、令和元年度以降は新型コロナの感染拡大により、多くの発表会が中止となり、実施形態もオンライン主体となりました。参加のハードルが高くなり、発表会の多くは賞を出すものではなくなったため、大きくその数を減らしています。今後の対面発表の再開が待ち望まれます。
  • 図4 外部発表会への参加と受賞数