2026.5.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 26年度がスタートし1ヶ月、あっという間に過ぎました。
 4月は新しい出発、新しい出会いの月です。学園では、4月8日に在校生の始業式、9日には中学・高校それぞれの入学式が、桜の花が咲き続ける中で行われました。翌日からオリエンテーションなどを行い、13日から全学年の授業が始まりました。さらに18日には、生徒主催による新入生歓迎会(クラブ紹介など)が行われました。
 各学年では新たな出発にあたり、新鮮な思いを込めた学年通信を出していますが、特に中1と高1の表題と学年主任の思いを紹介します。

中学1年生:表題「Ichikawa Commons」
 互いに切磋琢磨し、協力し助け合うことを意味する「共有地(入会地)」です。スローガンは、「パラダイムシフト」としました。考え方が劇的に変化することを意味しますが、新しい学びや新しい友との出会いを通じて視野を広げ、これまでの常識を更新してほしいという願いを込めています。

高校1年生:表題「やらまいか」
 授業・部活動(委員会)・課外活動の3本を柱とする「三立」を生活と学びの土台とし、HONDAの創業者である本田宗一郎の「やらまいか精神」(まずやってみる姿勢)を軸として、生徒一人ひとりの成長を支えます。

 さて、学園には3つの幼稚園(市川学園幼稚園、第2幼稚園、西の原幼稚園)がありますが、その一つである第2幼稚園の連携施設として、第一グラウンド内に1~2歳児の保育施設「キッズフォレスト」の園舎が完成し、4月1日より19名の園児を迎えて保育をスタートしました。
 2300㎡の森の敷地の中にある素晴らしい建物です。創立者・古賀米吉は0歳からの幼児教育を重視しており、創業の地に保育施設が誕生したことは感慨無量です。建学の精神である「一人ひとりの特徴をよく見て伸ばそう」という『なずな教育』のスタートの場です。
 設計者のコンセプトは、「木漏れ日が降り注ぎ、陽ざしが漏れてくる空間で、四季を感じ、感性を豊かに過ごす保育施設」です。また、市川学園幼稚園でも、園内において2歳児からの保育を始めました。

 3つの幼稚園はいずれも、絵本・童話をたくさん所蔵し、親子での読書を重視しています。貸し出しできるたくさんの絵本・童話に加え、原画の所有と展示、絵本・童話に関する行事を行っています。絵本や童話には、大人が読むべき作品が多く、素晴らしい本が多数あります。
 第2幼稚園では、絵本作家による講演、原画展示、年長組の絵本遠足(クレヨンハウスでの絵本の選定と購入)など、絵本や童話に関するイベントを園の特色あるプロジェクトとして推進しています。
 特に絵本は、絵と文章が「コトバ」となり、シンプルですが、人生・愛・成長・老い・孤独・幸福・友情などの本質的テーマが多く、余計な説明がない分、深く考えさせられる本が多いと思います。
 大人が絵本を読む理由としては、こうした本質的テーマに触れられること、想像力・感性を取り戻せること、短時間で深い読書体験ができること、自分自身に向き合えること、そして心の癒しになることなどでしょう。

 最近感銘を受けた絵本は、「おおきな木」(原題The Giving Tree)で、シェル・シルヴァスタイン(1932~1999:米国の児童文学作家、詩人、音楽家、漫画家)が文も絵も書いており、1964年米国で出版、31ヶ国語に翻訳されたロングセラーです。(日本語訳:本田錦一郎)2010年には村上春樹による新訳が出版されました。
 リンゴの木(She)が、少年(Boy)の一生に、最初から最後まで、すべてのものを与え尽くす物語です。少年はリンゴの木の葉、実、枝、幹のすべてをもらい尽くし、お金にし、家をつくり、船をつくり、人生の旅を過ごし、最後に年老いて、古株だけになったリンゴの木に戻ってくるストーリーです。
読者は、自分は木なのか、それとも少年なのか、幸福や無償の愛とは何か、現実の人生の事例など、いろいろと自由に考えることができます。
絵本や童話は、平易でありながら、深い哲学書でもあると思います。

参考文献;
おおきな木(シェル・シルヴァスタイン、村上春樹訳:あすなろ書房) 
英文(日本語訳つき)のものもあります。
Wikipedia:おおきな木(音声資料あり)
Wikipedia:シェル・シルヴァスタイン
NHK100分de名著 絵本スペシャル

2026.4.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 3月は別れの季節であり、新しい出発への準備のときです。3月4日には、第78回高校卒業生417名の卒業式(卒業証書授与式)を、田中甲市川市長、二川則義同窓会長、野村あずさ後援会長をはじめ、多くの来賓にご臨席いただき、厳かな中にも和気あいあいとした雰囲気で、無事に挙行することができました。学年主任・担任を先頭に入場する卒業生を拍手で迎え、君が代斉唱、理事長・学園長挨拶、市川市長挨拶、卒業証書授与、賞状賞品授与、校長式辞、同窓会会長挨拶、祝電披露、卒業生からの記念品目録贈呈、卒業生への記念品贈呈、卒業生謝辞、卒業の歌「旅立ちの日に」を保護者に向けて合唱し、最後に校歌斉唱で式を締めくくりました。その後、卒業生の退場を見送り式典を終えました。毎年のことながら、感動する時間です。午後には、後援会・卒業生主催の謝恩会があり、お世話になった先生方(学園幹部、学年教職員ほか)への感謝の言葉と記念品贈呈、学園生活での思い出の映像、余興、合唱「3月9日」など、短時間でしたが充実した心のこもったひとときでした。
 中学は99%が市川高校に進学する(内進生)ので、卒業式でなく修了式としています。23日の終業式の日に、國枝記念国際ホールにて、理事長挨拶、卒業証書授与、校長祝辞を行い簡素ながら心を込めた門出を祝う式を行いました。

 さて、作家の司馬遼太郎は晩年「二十一世紀に生きる君たちへ」(注)というエッセイを、小学校6年の教科書(大阪書籍:小学国語下)に書きました。
 技術革新のスピードが速く、自国第一・自分第一主義、対立と分断が続く今こそ、価値あるメッセージであり、その要旨を以下に記します。

1.空気・水・土など自然こそ、不変の価値であり、人間は他の動植物とともに自然に依存しつつ生き、生かされてきた。
2.人間は古代でも中世でも自然こそ神々とした。自然をおそれ身を慎んできたが、近現代になり人間こそが一番偉い存在だと思いあがってきた。
  人間は自分で生きているのではなく、大きな存在によって生かされているという素直な態度こそ希望であり君たちへの期待である。
3.君たち自身のことである。人間は、自分に厳しく、相手にやさしい、素直で賢い自己を確立しなければならない。
4.21世紀は科学・技術がもっと発達するが、洪水のように人間をのみこんでしまってはならない。人間が科学・技術を支配し、良い方向にもっていってほしい。
5.人間は孤立しては生きられず、社会という支え合う仕組みを作っている。人間は自己中心でなく支え合う存在であり、助け合う、いたわり、他人の痛みを感じること、やさしさが大切である。これらは本能ではないので訓練が必要である。これがしっかり根づけば、他民族へのいたわりも湧き出る。
6.君たちは自己を確立し、魅力ある頼もしい人間になってほしい。君たちの未来が真昼の太陽のように輝いていると感じた。
 (注)掲載本:「十六の話」(中央公論社)、「二十一世紀に生きる君たちへ」(司馬遼太郎記念館)および(朝日出版社)

 司馬さんは、21世紀を背負う若者へ、頼もしくたくましい強さを持った人間であるとともに、自己中心でなく、やさしさ・思いやり・人の痛みを感じ、生かされているという謙虚な気持ちを持たねばならないと言っています。
 今、世界では戦争や紛争が収まらず、むしろ拡大・エスカレートしています。力こそ正義、強ければ何をやってもよいという風潮が広がり、民主主義・法の支配・基本的人権が危機にあります。これが本当の強さなのか、いま真の強さとは何かを考えてみる必要があります。

 奇しくも、今年の東京大学の入試における英語問題2(A)は、下記の通りでした。
 「以下の問いに、60~80語の英語で答えよ。What does it mean to be strong?」
 まさに知識でなく思考力を測る問題であり、強いとは何か、単なる肉体的な力ではないものとして、「強さ」や「弱さ」、他者との関係などを理解し論じる問題です。
 正解はいろいろあると思いますが、強さの定義、具体的内容が必要でしょう。
 回答として、「強いとは、単に身体的な力や恐れを感じない力を意味しない。真の強さとは、困難に正直に立ち向かい、あきらめず、自分の弱さを受け入れ、失敗しても努力を続ける力にある。また、強い人は、他者を理解し、特に弱者を支える。困難にあっても忍耐と勇気を示す。強さとは他者を支配することではなく、共感すること。逆境でも助け合うことである。」など考えたい。

 強さを示す有名な言葉として、下記の言葉を思い出します。
「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。」米国の作家レイモンド・チャンドラーの小説プレイバックの中で、主人公の私立探偵フィリップ・マーロウに言わせた名言です。 以下が原文です。
 「 If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.」

2026.3.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 2月は入試の季節であり、高校3年生は志望大学の個別試験にチャレンジを続けています。自分の掲げた目標をあきらめないでほしい、人生は長い、回り道も失敗も可能、「Never Give Up」の精神で頑張ってと応援しています。
 一方、中学・高校の入試も終わり、10日の中学入学ガイダンスおもって入学者が決まりました。お蔭さまで、今年も定員320名を超える多様な特色ある生徒を入学式に迎えることができます。心から歓迎したいと思います。高校につぃては、3月13日高校入学ガイダンスで最終入学者が決まります。
 また、2026年度に向けて、人事体制(校務分掌)や予算編成の作業が行われました。予算は新しい人事体制のもと、27部門で具体的内容を検討し、その集積として2026年度予算案がつくられ、3月の理事会・評議員会で決定されます。また、第6次中期計画の取りまとめも行われました。予算編成は単なる見込みや目安ではなく、各施策の具体的内容(何を、いつ、いくらで)が大切で、まさに「実行の意思」であり経営の根幹です。

 さて、8日の衆議院議員選挙により政治のかたちが決まり、政策の迅速な実行を期待するところですが、何より大切なのは資源である「人財」です。教育・研究の予算を充実させ、決めたことを確実に実行してほしい。今後の国力向上には、一人当たりGDPの増大、生産性の向上、創造力の発揮が不可欠です。公教育の一翼を担う私学への補助・助成を、より一層確実に強化していただきたいと念願しています。
 私学の中等教育(中学・高校)は、国と都道府県の補助金(交付税と単独の補助)があり、これが学校収入の約30%、残りの約70%は学納金によるものです。私学助成が法律で規定されたのは、昭和50年の「私立学校振興助成法」であり、さらに平成18年改正の「教育基本法」第8条私立学校の項で、「・・・国及び地方公共団体はその自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。」と明確に規定されています。

 当学園も補助金に依存しつつ、良い教育の提供のためには収入増が不可欠であり、入学年度から授業料増額をお願いしてきました。諸物価上昇の折、今後とも教育の質の維持・向上のためには増額が必要です。高校授業料の無償化は保護者にとって極めて重要です。
一方、支出(人件費と経費)については、無駄の排除、種々の削減の努力を続けるとともに、教職員の処遇改善、必要な残業料負担で人件費は増大しています。また、経費については、物価・人件費の上昇、環境の整備・維持管理に多くの費用が掛かりますが、施策の実行を先送りすることはできません。

学園の教育・経営で重視していることは、
1.不易の建学の精神をさらに進化させ実践・・独自無双の人間観(多様性)、なずな教育(個の教育)、第三教育(自ら学ぶ力)
2.教育の基本を大切に・・リベラルアーツと5つの力(人間力、学力、教養力、科学力、国際力)のさらなる進歩
3.安定的経営と持続的発展・・世の中の変化に対応できる力、財務力、生徒・保護者から選ばれる力(定員・募集人員の確保)
4.時代の変化に合った卓越した教育の実践・・個々の生徒の進歩・成長、第三教育の達人の育成、教職員の学び・研究の活性化
5.卒業生の活躍と社会貢献・・同窓会の伝統と活性化
6.経営のガバナンス・・理事会・評議員会による秩序と進歩

具体的実行ステップは、
1.4年単位での中期計画を立て、その目標に基づいて年度計画を作成し、各部門でPDCA(計画・実行・チェック・次の行動)サイクルを実践する。
中期計画は今まで5回実行しており、来年度からは第6次中期計画(2026年度~2029年度)となる。
2.中期計画に基づき、年度初めに各部門からの計画発表、年度末には評価を行い次年度計画実行へ。日常の意思決定・情報共有は毎週水曜日の教育経営会議で行う。
また、各部門代表者による主任・部長会議・課題別会議を適宜行う。日々の指示、情報共有は、毎朝教職員室で行う短時間の全体朝礼・各学年別朝礼、メール等に
 より徹底する。

教育の質は、教職員の質の高さであり、下記の事項を重視しています。
1.行動指針・・誠実と気概、風通しの良い明るい風土(活発なコミュニケーションと挨拶)、課題解決に知恵を出し合うチームワーク
2.Well-being(幸福)・・身体・心・社会的健康
3.深い専門力、広い教養、人間力・・研修・研究を奨励、初任者研修、公開授業、教科別研修、教科を超えた研修、外部研修、全員研修(年3回)を実施
4.研究の奨励・・古賀研究基金による研究費助成、紀要の発行
5.危機管理対応・・安全はすべてに優先、現場判断の重要性と迅速な報告・連絡・相談

「学びの共同体である市川学園は常に進歩する・・創立90周年に向けて」

2026.2.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

  中学入試第1回(幕張メッセ)
 1月は始業式から始まり、高校入試は17日、中学入試は20日(幕張メッセ)に行われました。受験生が十分に実力を発揮できるよう、毎年のことですが万全の準備を整え臨みました。中学2回目入試は、2月4日に行われます。高3生は、17日・18日の大学入学共通テストを終え、個別大学の二次試験に向けて力を注いでいます。
 最近は私立大学の一部では、学校推薦型選抜や総合型選抜で早期に合格者を確定する傾向が見られますが、国公立大学では一般選抜(入試)が中心です。当学園でも一般選抜にチャレンジする生徒が多数おり、これからがまさに正念場です。

 そのような中、大変うれしい知らせがありました。高3生N君が、受験勉強と並行して日本政策金融公庫の第13回「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(応募数639校5640件で過去最多数)にチャレンジし、共通テスト直前の11日東大伊藤謝恩記念ホールで行われた最終審査会(10のファイナリスト)において、「探究心に、翼を!研究マッチング【Re:Search】」(大学の研究室と高校生のマッチングサービス)というプラン名で堂々と発表し、見事に準グランプリ(2位)を受賞したことです。彼は多様なチャレンジを行い、自分の可能性を追求しようという素晴らしい人材です。自分が本当にやりたいことを、あきらめずに多様なチャレンジをすることの重要性を改めて感じさせてくれました。

 さて、1月には各業種で活躍する卒業生が集まって学ぶ会が行われました。(古賀塾と称しています)。既に10年以上23回行われ、卒業生であれば誰でも参加できます。冒頭に私が話をし、その後講演者(会のメンバーまたは外部講師)による講演と活発な質疑応答を通して互いに学び合います。
 テーマの一例は、「人生は運・鈍・根」、「企業法務の仕事」、「日系企業の海外シフトと物流企業の対応」、「商社の多様な仕事」、「俳句の楽しみ」、「働き方改革」、「漫画市場の変遷と今後の展望」、「民間企業から千葉市動物公園の園長へ」、「生成AIを使いこなそう」、「社会実装が本格化するロボットとAI」、「東洋医学と西洋医学について」、「税理士と税について」などきわめて多様です。その後の懇談会も、楽しい交流のひと時です。
 また、「生き方読書会」という保護者、教職員、卒業生、地域の方々が集まり指定読書(関係者で選ぶ)の感想を述べ合う会があります(幹事・まとめ役:学園評議員・カウンセラー)。この会は、30年近く続いており、かつては月に1回程度、年間12冊を学園に集まって学び合ってきました。コロナ禍以降は、幹事が各自の感想文をネットで集め、まとめてネット配信する形で続けられてきました。今は年6冊ほどを読んでいます。最近1年間に取り上げた書籍の例としては、「人類はどこで間違えたのか(中村桂子;中公新書ラクレ)」、「生きて死ぬ智慧(柳澤桂子;小学館)」、「みんなで読む源氏物語(渡辺祐真;ハヤカワ新書)」、「ホーキング、宇宙を語る(スティーブン・W・ホーキング;早川書房)」、「100分de名著:アリストテレス ニコマコス倫理学(山本芳久;NHK出版)」、「民話集:人はなんで生きるか(トルストイ;岩波文庫)」などがあります。

 市川市をはじめとする各地域社会には、研究会・勉強会・読書会など学び合う場は多く且つ盛んです。社会人教育の一環として行われているこれらの活動は、まさに「第三教育」です。人生100年時代において、このような会のメンバーになったり、講師になったりすることは極めて重要だと思います。

「少にして学べば、即ち壮にして為すこと有り。 壮にして学べば、即ち老いて衰えず。 老いて学べば、即ち死して朽ちず」
(佐藤一斎『言志晩録』60条;講談社学術文庫 川上正光訳)