2025.4.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 3月は門出の季節、別れの月であり、また新たな出発の時でもあります。卒業式をCommencement(commence:始める)というように、卒業は新たなスタートです。高校卒業式は、3月7日実施し、それぞれの道に大きく飛び立っていきました。中学生の卒業は、ほとんどの生徒が市川中学校へ進学するため、義務教育の区切りの中学修了式として、3月24日終業式後に実施しました。
 新年度のスケジュールも決定し、諸準備を進めています。この春迎える新入生は、中学校329名、高等学校441名(高入生126名、内進生315名)に決定しました。
 年度末試験終了後には、恒例のアカデミックデイ(各学年の口述発表会、SSH年度末ポスター発表など)、吹奏楽部およびオーケストラ部の定期演奏会、ニュージーランド研修、各種の課外活動が行われました。
 
 さて、生成AIやインターネットの急速な進展で、デジタル時代の教育がどうあるべきか種々検討されています。GIGAスクールの推進やコロナ時代に遠隔教育が進展し、デジタルコンテンツの活用・普及やICTリテラシーが向上したことは大きな成果です。生成AIの活用などどこまで進展するか、予想もつきませんが、デジタル仮想の空間での学習や体験が多くなるほど、現物や現地でのリアルな体験や活動が教育面でも極めて重要になります。
 本学園では、中学3年生以上の生徒は全員タブレットを保有し、種々の連絡、授業での活用、自宅での学習、課外活動などで活用しかつ定着してきました。一方で中学校低学年では、当初からタブレットは持たせず、手で文字を書くこと、紙の本をしっかり読むことなどリアルな体験を重視してきました。
 一例として中1国語科の授業では、授業の一部を使い、図書館(第三教育センタ)でワークショップ型(読み書く)の授業を行ってきました。1年かけて多様なジャンルの本を生徒が個々に選書して多量に読み、その知見をもとにエッセイなどを書く創作に結びつける取り組みです。生徒各自が図書館の好きな場所で、一人でじっくりと本を読む時間を重視しています。図書館での授業は、中2以上の学年や一部の理系の授業にも広がり、年間のべ800回の授業が図書館で行われています。また動植物園や博物館、国立公文書館などで自然や実物に接することにも重視してきました。

 最近、中教審のデジタル教科書推進WGにおいて、デジタル教科書を正式に教科書として認める中間答申があり、デジタル教科書のみでも授業が可能となるとのことです。これは慎重に検討すべきであり、やはり紙の教科書を中心に据え、デジタル教科書を併用または補助的に活用する形が望ましいのではないでしょうか。
 すでにスウェーデンでは、小学校で紙の教科書や鉛筆を使う時間を増やしたところ、集中力や思考力が向上したという報告があり、デジタルから紙の教科書に回帰が進んでいるとのことです。(読売新聞24年10月22日)また、教育のデジタル化で先進国とされてきたフィンランドでも、国際学習到達度調査PISA(読解力、科学的応用力、数学的応用力を調査)の成績が急落し、紙の教科書の重要性が再認識され、紙の教科書中心とした教育へと転換しているとのことです。読解力の成績は、2000年には1位だったものの、2022年には14位まで低下しました。ちなみに2022年のPISA読解力ランキングの上位は、1位シンガポール、2位アイルランド、3位日本でした。シンガポールや韓国もデジタル化のみに偏ることには、慎重な姿勢を示しています。(以上読売新聞25年3月18日)
 また社会においても紙の本の読書は重要視されています。地域の図書館や書店の維持が重要な課題とされており、地域によっては、図書館や町の書店がなくなるケースもあり、懸念されています。
 当学園では、図書館を「自ら学ぶ第三教育の知の拠点」として、第三教育センターと呼称し、12万冊の蔵書を有しています。2003年の新校舎建設時に、本館1階の最も良い場所に図書館を配置しました。朝7時から開館し、始業前にも読書を楽しめる環境を整えており、多くの生徒が利用しています。

 AI時代の今こそ、読書を通じて自らじっくり考え学ぶ時間と習慣を持ちたいものです。

2025.3.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 2月は、高3生が大学入学共通テストを終え、それぞれの目指す大学、目指す分野の一般選抜試験に臨んでいます。(すでに学校推薦型・総合型選抜試験は発表もされています。)本館3階の自習室で朝早くから黙々と学ぶ高3生の姿を見ると、顔が引きしまり美しささえ感じます。また自習室周辺の机で友人同士考え話し合っている姿もあります。全員に希望の大学・分野に進んでもらいたいと願うと共に、合否にかかわらず、限界まで頑張った力は必ずや人生に役立ち、失敗にも大きな学びがあると心から激励しています。
 さて2003年新校舎の開校時から実施している土曜講座は、学園の大きな特色としている課外講座です。今年度は年間8回、16人の講師の方に来ていただき、90分の講演・質疑応答を行ないました。中1~高3まで自由に参加でき、各分野の識者の講演を通じて広い分野を学び、生徒達は大きな刺激を受けています。すでに開始以来延べ400人以上の講師の方にご講演いただいています。分野は、自然科学、工学、医学、情報、文学、歴史、地理、法律、経済、哲学、芸術、音楽、ビジネス、起業。健康など多岐にわたります。講座がきっかけで、学ぶ方向、学び方、生き方等を知り、講師の「ひとこと」が自分の人生に大きく影響する人生・教養講座です。著名な方々に若い生徒のために来校いただき感謝しています。勿論各方面で活躍されている卒業生も積極的に講師を引き受けてくれています。ノーベル賞受賞者である故小柴昌敏、野依良治、故根岸英一、大隅良典各先生にも来校いただきました。
 今年度の土曜講座の最終日は、学園卒業生(高校36回)ナビタイムジャパン創立者、代表取締役社長大西啓介氏に、『経路探索技術で社会課題を解決』と題し、学生時代の研究から起業の経緯、今後の事業展望について話していただき、後輩生徒に大きな刺激を与えてもらいました。講演後の質疑応答が途切れなく、質問を打ち切りにせざるを得ないほどでした。概要は次の通りです。

1.大学院時代から研究してきたことを、研究室の後輩とたった2人で、父親の会社(大西熱学)の一部門としてスタートした。ナビゲーション技術を開発、PDA(電子
 手帳)マーケットで存在感を得、一定のメドがたち、2000年ナビタイムジャパンとして分社独立。
2.起業は最初が重要で、10年間ぐらいは極めて少人数で目標の開発をしつつ、その間は夜12時前に帰ったことがない程働いたが、楽しかった。
3.資金調達を外部に求めると短期で成果を求められ、本物の開発ができない。自分たちの僅かな資金 と外部のソフト開発など副業で食いつなぐ覚悟が必要。
4.その後も非上場を貫きむやみに拡大をせず、自前の技術の開発・蓄積に特化してきた。現在社員は約450名であるが、外注はせず全て自製を貫いた。外注すると
 技術やノウハウが自社に残らない。
5.トータルナビゲーションとしての自社の特徴
 ・全国バス・フェリーのデータを100%もつ
 ・ユーザーニーズに合った検索条件でルート探索できる・・フリーパス優先、国際間トータルナビなど
 ・電車、バス、自動車、トラック、自転車、バイクなど移動手段別に最適アプリを提供
6.社会課題の発見と解決
 ・独自開発の電車混雑予測技術で、電車の空いているルート提示
 ・赤ちゃんや子連れ移動のサポート
 ・リアルタイムで日陰マップ提供
 ・トラックカーナビ、観光バス専用カーナビ
 ・訪日外国人観光客向けのナビ・・インバウンドと地域活性化に貢献

 最後に高校時代の学びが如何に役立つかを、数学を例にとり具体事例で説得力ある話をしていただきました。
 生徒へのメッセージとして、『目の前の課題に真摯に向き合うこと(難しい問題は分解して考える事で解決する)』を色紙に書いてもらいました。
 今多くの企業が株価や売上・収益で競い合い、またグローバルな競争をしています。起業についても新しい技術や戦略で会社を立ち上げ、外部資本を得て上場し、成長を目指すことが推奨されています。一方ナビタイムのように非上場を続け、独自の技術や戦略でグローバルに活躍している企業も多数あります。今後日本人の特色を生かした産業・企業が多くでて、社会に貢献することを期待したいと思います。 

『継続は力なり』

 

2025.2.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 令和7年(2025年)がスタートし、あっという間に1ヶ月が経ちました。この間、高校入試、中学1回目入試(幕張メッセ)が無事終了し、残るは2月4日の中学2回目入試です。大学入学共通テストは、ほぼ全員の高3生が受験しました。また早くも4月からの新年度に向けた準備のため、25年度の人事・校務分掌の作成、25年度の年間行事予定表、大きな行事(宿泊行事、文化祭、土曜講座、各種セミナーなど)の具体化が進められています。

 2024年の学園トピックス42項目(学園の取組み、生徒の活躍)から、教職員が選ぶ重要トピックスが決定しました。
 1位 吉田学年(高校76回卒)の進学実績
   ・・東大合格者数過去最高の27名(既卒生含め31名)、難関10大学及び国公立医学部合格者数80名、国公立合格者数147名(卒業生の34.8%)
 2位 文科省よりSSH校として第4期目の指定
   ・・教科をまたがる学際研究と地域の科学技術教育への貢献を目標に5年間実施、1期より計20年間
 3位 なずな祭5年ぶりに来校者制限を撤廃
   ・・一般来場者2日間合計約16000人になる。街歩き・キッチンカーなど新企画を導入
 4位 中学第1回入試の男女別定員枠を撤廃
   ・・男女枠なしで280名(従来男子180名、女子100名)
 5位 高校陸上部 高1女子生徒の活躍
   ・・インターハイ200m6位、国民スポーツ体育大会100m2位など各種全国大会で活躍

その他生徒の活躍として主なものは、下記の通りです。
 *かるた同好会、演劇部、高校ハンドボール部、中学ハンドボール部、中学硬式テニス部、中学陸上部、応援部、山岳部などが県、関東、全国大会で活躍
 *高1生(現高2)JICA国際協力中高生エッセイコンテスト最優秀文科大臣賞受賞
 *高1生千葉県高校総合文化祭将棋大会A級優勝、全国大会出場
 *トビタテ!留学JAPANに13名合格(学校別合格生徒数全国2位)
 *SSHの活動:
  科学の甲子園ジュニア、千葉県大会優勝、全国大会準優勝
  科学の甲子園、千葉県大会優勝、全国大会出場(初)
  高3生日本地球惑星科学連合2024年大会高校セッション最優秀賞

 さて海外や地方から短い休暇期間を利用して帰省した卒業生が、学園を訪問し、親しい教職員と会い近況を報告してくれるのは本当に嬉しいことです。
 今回印象に残った卒業生のUT君(2023年3月卒、高校75回)のことを述べたいと思います。彼は経済的に困難な中、目指す海外大学進学を熱望し、卒業生寄付者による「HKなずな奨学金(海外大学奨学金)」の授与者に選ばれ、昨年1月ボストンのBerklee College of Music(バークリー音楽大学:ジャズおよびアメリカ現代音楽など商業音楽を専門とする世界最高の音楽大学)に入学を果たしました。大学ではオーディオテクノロジ-・レコーデイング・サウンドエンジニアリングを専攻、英語の壁のある中、優秀な学業成績をおさめ奨学金2年目の授与が決定しました。
 学業のみならず、ステージ演奏や音楽アルバムの発表など作編曲、アニメのサウンドトラックやコマーシャル音楽作成、アルバムカバーデザインなど幅広い活動をしています。こうした活動を通じ各国のそれぞれの専門家など多くの出会いがあり、人脈(ご縁)を広げており、自分の好きな分野での活動が楽しく、人生で最も密度の濃い時間を過ごしていると話していました。さらにたくましい精神力で1年間全く日本語を話さないほど現地に溶け込んでいました。インターネット時代、多くのことがコンピューターを通しスキルを修得でき作品を公開出来る中、大切な情報を見極め選択できる「判断力」が、積極性と共に必要と述べています。また将来の目標は音楽演奏家だけでなく、日本を代表するマルチアーティスト、クリエイターを目指すとのことでした。
 強く印象に残ったのは、到着後直ちに困難な状況に直面し生き抜いた力でした。米国初日、吹雪のボストンに到着したが、ロストバゲージ、物件詐欺(契約し家賃支払いまで済んでいた部屋にすでに人が住んでいた)に遭遇し、途方に暮れます。更に祝日で大学も閉鎖、仕方なくショッピングモールで夜を明かし、翌日警察に駆け込み、警察の聴取後大学へ連れられ、そこで渡されたのはフードバンク・マップ(食料炊き出し配給の地図)でした。誰も知り合いのいない異国の地で、日々生きぬくのは自分の力だと懸命でした。
 大学の新入生歓迎会でも同級生の積極性とレベルの高さに圧倒されますが、勇気をもって手を上げ演奏し存在感を示し、多くの友人を得たこと。恥ずかしい、目立ちたくない感情はこの国にはない、積極性と生き抜く力が道を開くことを実体験したのです。
 多くの人に助けられながらも強靱な生き抜く力、更に多くの出会いを自ら獲得し成長する姿に感動した次第です。
 グローバルな活躍を目指す若い力のたくましさと未来に希望を感じました。

2025.1.9
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 新年おめでとうございます。皆様それぞれ良いお正月を迎えられたと思います。毎年思うのですが、元気に平穏に年末年始を迎えられること、初詣など日本の伝統行事に参加できること、家族と団らんできることなど、当たり前、普通のことですが、本当に有難いことと思います。今や世界を見ると、普通、当たり前が難しい時代です。当たり前の日常が如何に大切か、平穏な一日一日を大事にしたいものです。三好達治の冬の日の一節「静かな眼 平和な心 その外に何の宝が世にあらう」を口ずさみます。

 能登半島大地震の災害から1年、今なお苦しい生活を強いられている方々に、心からお見舞い申し上げます。拡大する戦争・紛争地域、難民、環境破壊のことを思うと、本当に胸が痛みます。昨年12月に日本被団協がノーベル平和賞を受賞しましたが、講演された田中代表委員をはじめ被害者の方々の長い活動に心からの敬意を表します。また内外ともに政治が不安定な中、世界の平和が前進することを願っています。ホモサピエンスである人類の英知が試されています。
 16日間の冬期休業期間中も、勉強会、部活動、課外研究、各種大会参加等の活発な活動が行われ、また日頃できない体験をした生徒も多く、成長を期待しています。
 またこれからは入学試験の季節です。市川中学校入試は、1月20日幕張メッセでの第一回と2月4日の第二回、市川高等学校入試は1月17日の1回のみです。受験生が良い環境で受験できるよう、怪我や体調不良などの受験生のために特別室も用意しています。
 更に大学入試は、1月18日19日の大学入学共通テストをスタートに各大学の入試が2月を中心に行われます。大学入試に向かう生徒には、入学試験の合否は僅差故に最後まであきらめないこと、一方人生100年時代、1回や2回の失敗は問題なく、失敗の経験は成功につながる故、本当に自分のやりたいこと好きなことを目指すよう激励しています。

 今年は第5次中期計画の最終年、更に2年後(2027年)の90周年の節目に向かう年です。一歩前進し、教職員一同協力し意欲的活動をしたいと思っています。

 さて最近思うのは、AI、インターネットなどを通じDX(デジタルトランスフォーメーション:組織活動のデジタルによる変革)が進む中、DXによる組織活動の効率化と利便性を追求すると共に、一方でリアルのコミュニケーションや対面活動の大切さです。DXの進歩と優位性を追求・活用する一方、ますます対面活動の重要性と差異化が起こると思っています。
 学園のような教育組織もDXと対面の2極の活用・推進の発想が重要です。

1.教職員のDXによる働きやすさ、効率的活動の追求
 すでに学園では日常業務の大半がDX化されていますが、更に教職員が本来の教育業務や生徒対応に集中できるよう改善・改革が重要です。DX推進を通じ組織や仕事の仕組みの改革も必須です。DXは中期計画上も優先項目で投資を惜しむことはありません。
 校務分掌上は、ICT推進部が日常業務改善・改革推進と普及教育を、教育研究部が生成AIなど新技術の活用の研究・導入を担当しています。特に生成AIは、先行試行するエバンジェリスト(伝道者)的教職員の拡大を通じ、課題をまとめ、教職員・生徒へのガイド、規制、更に活用を推進していきます。

2.教職員の対面コミュニケーションの重要性
 DXの重要性と共に、その組織が本当に成果を上げるため、最後に大切なことは対面コミュニケーションの活性化です。誰でも何でも話せ意見を言える風土、困ったこと不満なども直接言える関係、誰でも提案できる環境です。縦横斜めのコミュニケーションを活発にし、教職員と管理職の間、部長主任と管理職の間、学年内、教科内など、どこの間でも話し合い問題を提起できる風土、異なる部門同士の交流などが大切です。
 チーム市川学園としてお互いに助け合うこと、仕事の負荷が一人に集中しないよう協力すること、課題・問題を共に解決することです。何よりも教職員の元気さとコミュニケーションのよさが、生徒にも元気を与えます。お互いに声をかけ合う、話す、明るい挨拶をすることも大切です。挨拶はコミュニケーションの基本であり、文字通り「あかるく、いつも、さきに、つづけて」です。これらを学園として推進してきました。このための多くの仕組み、例えばオープン授業、教科を越えた学ぶ会、学年・教科の自主性などですが、今年も更にリアルのコミュニケーションを大切に活発にしたいと思っています。

「コミュニケーションの基本は、互いに相手を思いやる心である」