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2025.03.31理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#232 今こそ紙の本を読む重要性を認識しよう

2025.4.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 3月は門出の季節、別れの月であり、また新たな出発の時でもあります。卒業式をCommencement(commence:始める)というように、卒業は新たなスタートです。高校卒業式は、3月7日実施し、それぞれの道に大きく飛び立っていきました。中学生の卒業は、ほとんどの生徒が市川中学校へ進学するため、義務教育の区切りの中学修了式として、3月24日終業式後に実施しました。
 新年度のスケジュールも決定し、諸準備を進めています。この春迎える新入生は、中学校329名、高等学校441名(高入生126名、内進生315名)に決定しました。
 年度末試験終了後には、恒例のアカデミックデイ(各学年の口述発表会、SSH年度末ポスター発表など)、吹奏楽部およびオーケストラ部の定期演奏会、ニュージーランド研修、各種の課外活動が行われました。
 
 さて、生成AIやインターネットの急速な進展で、デジタル時代の教育がどうあるべきか種々検討されています。GIGAスクールの推進やコロナ時代に遠隔教育が進展し、デジタルコンテンツの活用・普及やICTリテラシーが向上したことは大きな成果です。生成AIの活用などどこまで進展するか、予想もつきませんが、デジタル仮想の空間での学習や体験が多くなるほど、現物や現地でのリアルな体験や活動が教育面でも極めて重要になります。
 本学園では、中学3年生以上の生徒は全員タブレットを保有し、種々の連絡、授業での活用、自宅での学習、課外活動などで活用しかつ定着してきました。一方で中学校低学年では、当初からタブレットは持たせず、手で文字を書くこと、紙の本をしっかり読むことなどリアルな体験を重視してきました。
 一例として中1国語科の授業では、授業の一部を使い、図書館(第三教育センタ)でワークショップ型(読み書く)の授業を行ってきました。1年かけて多様なジャンルの本を生徒が個々に選書して多量に読み、その知見をもとにエッセイなどを書く創作に結びつける取り組みです。生徒各自が図書館の好きな場所で、一人でじっくりと本を読む時間を重視しています。図書館での授業は、中2以上の学年や一部の理系の授業にも広がり、年間のべ800回の授業が図書館で行われています。また動植物園や博物館、国立公文書館などで自然や実物に接することにも重視してきました。

 最近、中教審のデジタル教科書推進WGにおいて、デジタル教科書を正式に教科書として認める中間答申があり、デジタル教科書のみでも授業が可能となるとのことです。これは慎重に検討すべきであり、やはり紙の教科書を中心に据え、デジタル教科書を併用または補助的に活用する形が望ましいのではないでしょうか。
 すでにスウェーデンでは、小学校で紙の教科書や鉛筆を使う時間を増やしたところ、集中力や思考力が向上したという報告があり、デジタルから紙の教科書に回帰が進んでいるとのことです。(読売新聞24年10月22日)また、教育のデジタル化で先進国とされてきたフィンランドでも、国際学習到達度調査PISA(読解力、科学的応用力、数学的応用力を調査)の成績が急落し、紙の教科書の重要性が再認識され、紙の教科書中心とした教育へと転換しているとのことです。読解力の成績は、2000年には1位だったものの、2022年には14位まで低下しました。ちなみに2022年のPISA読解力ランキングの上位は、1位シンガポール、2位アイルランド、3位日本でした。シンガポールや韓国もデジタル化のみに偏ることには、慎重な姿勢を示しています。(以上読売新聞25年3月18日)
 また社会においても紙の本の読書は重要視されています。地域の図書館や書店の維持が重要な課題とされており、地域によっては、図書館や町の書店がなくなるケースもあり、懸念されています。
 当学園では、図書館を「自ら学ぶ第三教育の知の拠点」として、第三教育センターと呼称し、12万冊の蔵書を有しています。2003年の新校舎建設時に、本館1階の最も良い場所に図書館を配置しました。朝7時から開館し、始業前にも読書を楽しめる環境を整えており、多くの生徒が利用しています。

 AI時代の今こそ、読書を通じて自らじっくり考え学ぶ時間と習慣を持ちたいものです。