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2025.07.31理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#236 あらためてウェルビーイングの大切さを思う

2025.8.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 7月は、学期末試験が終了すると、生徒は夏休みの活動やその準備に取りかかります。18日終業式後の44日間の夏期休業期間は、生徒の活動は学校主催の国内外の活動や部活・合宿以外に、個人の課外活動も非常に活発でうれしい限りです。海外に行く生徒も多く、成果を期待するとともに健康と安全を第一に願っています。学園文化祭「なずな祭」の準備も行われ、玄関には、生徒作成のなずな祭まであと何日の表示が大きく掲示されています。(8月1日現在、あと50日です。)
 一方夏休みは、施設の補修、追加などが行われる時期でもあります。今年は全教職員のPC新機種への入替、一斉休業期間を利用して教職員室のカーペットの張替え工事、学校全体の環境整備などを行います。また熱中症対策として、暑さ指数計(WBGT計測器)を各施設に配備し、部活顧問にも持ってもらい適宜計測し、運動の中止、活動場所の移動などを適切に判断できるようにしています。そのための「熱中症対策ガイドライン」が作られています。安全と健康はすべてに優先します。
 さて、あらためてウェルビーイング(WB;Well-Being)と幸福論について考えたいと思います。
WBは1946年設立のWHO(世界保健機構)の憲章の中で述べられた言葉で、「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 健康とは、単に病気ではないとか、虚弱でないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあること。」とあります。
一般的に、WBは健康、福祉、幸福などと訳され、ここでは持続的「幸福」とします。また国連採択の持続的開発目標SDGs(17目標)の第3目標は、「Good Health and Well-Being.すべての人に健康とウェルビーイングを」としています。
 国際情勢が不透明であり、AIはじめ技術革新の加速時代、ストレスの多い中、各個人のWB(幸福)は、人生100年時代の生き方、良い経営(健康経営)、働き方改革、経済の成長にも不可欠です。
またWBはこれからの教育の一つの柱であり、第4期教育振興基本計画(23年度~27年度)のコンセプトは次の2つをあげています。
 ①  2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成
 ②  日本社会に根差したウェルビーイングの向上
特に②では、多様な個人の幸せや生きがい、地域や社会の幸せや豊かさ、幸福感、つながり、利他性、自己肯定感、自己実現、調和と協調などが述べられています。これらは主として教育を受ける者と環境が対象に見えますが、実は教育を行う者のWBも合わせて考える必要があります。この視点から、教職員自身がベストコンディションで意欲をもって教育にあたることは、質の高い教育のためにも、生徒のWBのためにも極めて重要です。学校の組織目標、人事、処遇、校務分掌、職場環境、働きやすく効率的システム、人間関係、WBを重視する風土などが大切です。
WBにおいて身体的健康は基本であり、食事・運動・睡眠、良き生活習慣が土台となります。また心の健康(幸福感)は特に大切であり、物よりも心の満足、自己肯定感、前向き志向、感謝、思いやり、利他の精神などが重要です。
最近は幸福学、WB研究という学問分野もありますが、昔から幸福論は生き方の哲学として長く存在し、アリストテレスのニコマコス倫理学(最高善は幸福)から三大幸福論(C.ヒルティ、アラン、B.ラッセル)、古今東西の古典、内外の生き方の書、ポジティブ心理学(M.セリグマン)など、幸福論につながるものが多々あります。
創立者古賀米吉は、善行は人のためだけでなく自身の快感(幸福)に結びつくとして、市川善行会を立ち上げました。「自利とは利他をいう(大乗仏教)」も他の人ためにやったことが結局自利、自身の幸福に結びつくということでしょう。「植福・分福・惜福の工夫(幸田露伴)」、「知足者富(足るを知る者は富む;老子)」なども含蓄に富んだ言葉です。幸福の5条件として、健康、やるべきことがある、よき人間関係、感動する心、適度のお金(斎藤茂太:精神科医エッセイスト)などは分かりやすい条件です。
2023年土曜講座で来られた前野隆司慶応義塾大学教授は現代の幸福学、WB研究の第一人者であり、WB学会会長もされています。前野教授の幸福に大切な4つの因子は、やってみよう(自己実現と成長)、ありがとう(つながりと感謝、利他)、なんとかなる(前向きと楽観)、ありのままに(自分らしさ、人と比較しない、自己肯定感)です。
*参考著書「ウェルビーイング」前野隆司・前野マドカ(日経文庫)」
最後に、ご縁とお蔭様と運が、ウェルビーイングにつながると思うこの頃です。

 カルぺ・ディエム(Carpe Diem);その日(の花)を摘め、今を生きよ
            ホラティウス(古代ローマの詩人)