2025.09.30理事長メッセージ
理事長からのなずなメッセージ#238 AI時代にあらためて思う 司馬遼太郎「二十一世紀に生きる君たちへ」
2025.10.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一
9月のハイライトは、何といっても20日21日のなずな祭でした。生徒が考えて選んだ今年のテーマは「なずな一番街」。多様な展示や演技が集まり、皆がそれぞれ一番になれる活気に満ちた繁華街をイメージしたものです。
2日間で14211人の方がご来場いただき、生徒にとって印象に残る文化祭でした。キッチンカーは昨年の倍の8台を設置。新たに後援会が本館3階に初めて広場をつくり、学園生活について質問を受け対話し、後援会活動展示も行うなど新しい試みでした。なずな祭も、毎年進化し新しい試みを重ねています。
さて作家の司馬遼太郎(1923~1996)は、子ども向けの作品は、わずかに2つ「二十一世紀に生きる君たちへ」と「洪庵のたいまつ」です。
「二十一世紀に生きる君たちへ」は、司馬さんが子ども向けに書いた初めてのエッセイで、大阪書籍の教科書「小学国語6年下」(1987)のために書き下ろしされました。小説一編を書くよりも苦労したといわれるほど、何色もの色鉛筆で、原稿用紙の文章を何度も推敲しています。この原稿は2001年開館した司馬遼太郎記念館(東大阪市)に保管されており、記念館図録にも原稿の一部が掲載されています。司馬さんは21世紀を自分は迎えられないことを予期しつつ、遺言ともいえるような21世紀を担う子どもたちへの力強いメッセージで、羨望の念が込められています。技術革新の早い今の時代を予測し、大切なことをすべて指摘されており、何回読んでも感動します。重要な点を引用してみましょう。(括弧内は原文です。)
1.人間は自然の一部であり生かされている存在、自然こそ不変の価値
「・・・空気と水、それに土などという自然があって、人間や他の動植物、さらに微生物にいたるまでが、それに依存しつつ生きているということである。・・・人間は自然によって生かされてきた。」
2.人間は一番偉い存在と思いあがってはいないか
「・・・歴史の中の人々は、自然をおそれ、・・・身をつつしんできた。その態度は、近代や現代に入って少しゆらいだ。人間こそ、いちばんえらい存在だ。」
3.素直で賢い自己を確立せよ
「・・・自己を確立せねばならない。自分にきびしく、相手にはやさしく。・・・そして、すなおでかしこい自己を。」
4.21世紀の科学技術をしっかり支配し良い方向へ
「21世紀にあっては、科学と技術がもっと発達するだろう。科学・技術が、こう水のように人間をのみこんでしまってはならない。川の水を正しく流すように、君たちのしっかりした自己が、科学と技術を支配し、よい方向に持っていってほしいのである。」
5.自己中心ではいけない、人間は助け合う存在
「人間は、社会をつくって生きている。社会とは、支え合う仕組みということである。・・このため、助け合う、ということが、人間にとって、大きな道徳となっている。助け合うという気持ちや行為のもとのもとは、いたわりという感情である。他人の痛みを感じることと言ってもいい。やさしさと言いかえてもいい。」
6.21世紀への期待と頼もしい人間
「人間は、いつの時代にもたのもしい人格を持たねばならない。・・・訓練することで、自己が確立されていくのである。・・・書き終わって、君たちの未来が、真夏の太陽のようにかがやいているように感じた。」
要約していえば、司馬さんは、自然の大切さと科学技術の正しい利用、自己の確立と他者への思いやり、たのもしい人間の育成を語っておられます。
司馬さんのメッセージを、今のAI時代に拡大すれば下記のようなことだろうと思います。
① 人間は、AIと違い生きものであり、自然の中で生き生かされている存在であること、傲慢にならず謙虚であること。地球環境の課題を解決しなければならない。
② AIなど科学技術が急速に開発される時代こそ、その有益な利活用を推進するとともに、正しい利用についての工夫や適切な制御・自制が必要であること。
③ 機械であるAIを活用しつつ、自己中心でなく支え合うこと、協同して課題を解決すること。AIでは不可能な、「思いやり」、「共感性」、「創造性」、「想像力」、「総合的判断力」などが大切であること。
④ 学ぶ力を持ち続け、自分の好きな目標に向かいチャレンジし、国内外にたくましく活躍し貢献してほしいこと。
21世紀はまだ4分1しか過ぎておらず、これからの若い世代への期待は大きく、まさに「二十一世紀に生きる君たちへ」は、AI時代にこそ必要なメッセージと考えられます。全文一読されることをおすすめします。
掲載本;『二十一世紀に生きる君たちへ』(司馬遼太郎記念館)、『十六の話』(中央公論社)『対訳 21世紀に生きる君たちへ』(朝日出版社)など



