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2022.03.03理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#198 誠実;コロナ禍の中の卒業生の皆さんへ

22.3.3.
市川学園理事長・学園長 古賀正一

オミクロン株の感染が拡大し、まん延防止等重点措置適用が延長(3月6日まで)されました。生徒の感染も増えましたが、的確な情報と濃厚接触者の把握、出校停止等で、学級閉鎖はありましたが、保護者、生徒、教職員の協力で、学業の継続が適切に実施出来たことは幸いでした。

感染症防止対策を徹底しつつ、授業も予定通り進み、部活動やネットでの外部活動も粛々と行われました。中学新入生ガイダンスは、昨年と同じく密を避けるため、午前午後半数に分け実施し、新入生323名が決定しました。高校3年生は、国立大学の2次試験日の前日まで自習室に頑張った生徒も多く、心から声援しています。すでに私立大学入試、国立大学の学校推薦型入試・AO入試等で合格の報告に来る生徒、残念ながら失敗し相談に来る姿など、高3の先生は忙しい日々です。合格した生徒には心からの祝福を、残念な生徒には、あせることなく本当に好きなこと、希望や目標を大切にし、チャレンジして欲しいと応援しています。

今年も3月2日に第74回(共学14回)高等学校卒業証書授与式を実施し、451名が巣立ちました。保護者1名ずつの参加のみですが、短時間での心のこもった式典を行い、続いて後援会主催の謝恩行事も行われました。以下は小職の卒業式での祝辞です。



祝    辞

451名の第74回市川高等学校卒業生の皆さん、心をこめて卒業おめでとう。

保護者の皆様、ご子息ご息女は心身ともにたくましく成長され、今日立派に卒業されます。心からお祝いを申し上げます。後藤同窓会会長をはじめ来賓の皆様には、ご多用な中参列いただき有難うございます。

卒業式はコメンスメント即ち新たなる出発です。「君は君我は我なりされど仲良き」武者小路実篤のことばですが、皆さん一人一人かけがえのない自分を大切に、自分の特徴を存分に生かし、本当にやりたいことを見つけ、我が道を切り開いて下さい。

技術革新が激しく世界が不安定な中、SDGsに示される世界の課題は多く、大学で学び社会に出た後も常に新しいことを学び、新しいスキルを身につける将に第三教育の時代です。更に人生100年、自分の好きなことを2毛作3毛作でやれる時代であり、自分らしさを生き、真の幸福を追求して欲しいと思います。

皆さんが高校1年の3学期の後半からコロナ感染症COVID-19 が広がり、休校や遠隔授業もあり、修学旅行や各種の行事もなかったり縮小されたりしました。この大きな制約の中で、皆さんはデジタル・ネイティブらしく、リアルとネットの複合活動で、外部の行事やコンテストなど課外の活動にも積極的に参加するなど、よく頑張ったと思います。この体験は必ず将来に生きます。

今日は門出に当たり、人間の誠実さについて話をしたい。人生色々なことに出会うが、最後は日々の行動の誠実さが道を開きます。誠実とは、何事に対しても真面目で真心がこもっていることです。

本校に50年ほど前に稲田伊之助先生と言う国語の先生がおられました。香川県の丸亀高等学校の教頭から本校に来られ、現代文・古文・漢文にわたり抜群の力量をもった先生でした。小学校卒業後、貧乏で上級学校に行けず、全て独学で小学校、中学校、高校の教員免許を検定試験で取得された、まさに第三教育の達人でした。この稲田先生の同郷の後輩であり小学校時代の教え子が、1970年代終わりの第68代総理大臣大平正芳と言う方でした。大平首相は、当時田園都市構想、環太平洋連帯構想、総合安全保障構想、財政問題など、今こそ将に必要なことを主張し推進されました。人柄は朴訥、読書家・勉強家であり、知性ある真のステーツマンであったと思います。残念ながら1年半ほどの在任で、政治闘争の中、衆議院を解散し、衆参同時選挙の最中に急逝されました。

当時稲田先生は若い頃の思い出を書いた「随筆集」を発刊し、教え子である大平首相にもお送りしたところ、驚くことに時の首相から直筆のお礼の返信がありました。これから中南米に出張するので楽しみに読み、必ず感想をお送りするというものでした。

約束の2通目が苦渋の衆議院解散の翌朝の日付けで、稲田先生のもとに届いたのです。郷里への思い、恩師に対する敬愛の念がしたためられ、胸を打つものがあります。手紙の概要は次の通りです。『出張中58時間機中におりましたので、楽しく読ませて頂きました。私が驚きましたのは、先生の御記憶の強さ、正確さです。更に先生の人間に対する思いやりや愛情の深さに痛く感銘するとともに、先生の清涼な人生に羨望の思いさえ感じた次第です。・・・』政治家でも民間でもトップに立つ人の多くは、秘書に簡単な礼状を書かせるのが精一杯です。むしろ返信など出さないのが普通です。多難多忙な中、直筆でのこの手紙は大平首相の真の誠実さを示すものであります。

一見日常の小さなこと、頼まれたこと、約束を大切にすることの積み重ねが、人生で大きな事をなす元です。『小事に忠なる者は大事にも忠なり』と言います。皆さんも日常の小さなことへの誠実な対応を大切にしてください。誠実こそが、人から信頼される原点なのです。

最後に皆さんは、ご両親はじめ先生方やお世話になった方々への感謝の気持ちを忘れないでほしい。人間はひとりでは決して生きられない、多くの人のお蔭で生かされている存在なのです。これからも皆さんが出会う多くの人とのご縁を大切に、人間関係ネットワークを豊かに持つことこそが、皆さんの貴重な無形の財産になるでしょう。卒業後うれしいとき、悩んだときなどいつでも学校に来てください。市川学園は常に皆さんのホームです。皆さんがそれぞれの場で『一隅を照らす人』として活躍する未来を祈念し、私のお祝いの挨拶とします。