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2023.05.31理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#213 教育におけるウェルビーイングの重要性           ・・・次期教育振興基本計画のコンセプト

2023.6.1
市川学園理事長・学園長 古賀正一

 23年度も2ヶ月たち、新入生も環境に慣れてきました。5月はまさに新緑風薫る季節、暦の上では初夏です。新型コロナウイルス感染症が、法律上の5類に指定され、基本的感染防止対策を継続しつつ、活動はコロナ前に近い形で実行できるようになり、講演はじめ集団活動もコロナ前の密度で実行しています。マスク着用は自己判断で、教職員も必要によりマスクを着用します。
 国際研修等グローバルな活動も実施予定で、夏の米国ボストン・ダートマス大学研修を再開、新たにシンガポール研修をスタートし、来年春にはニュージーランド提携校での研修も再開予定です。国のトビタテ留学JAPANも今年度11名が合格(過去8名が最大)しました。また英語でチーム3人による演習問題、討論、エッセイで教養を競うWSC(ワールドスカラーズカップ)東京大会が5月連休中2日間にわたり、学園で開催されました。Junior(中学)、Senior(高校)合わせて関東地区56校120チーム360人が参加し競いました。お蔭様で当校は参加8チーム24人全員が世界大会参加の権利を獲得(参加チームの3割が獲得)しました。7~8月には世界大会が行われ、更に優秀な成績者は米国イェール大学最終大会に出場の権利を得ます。
 スポーツでは高校軟式野球春季千葉県大会で、19年ぶり9度目の優勝を果たし、関東大会に出場しました。
 また校外学習が行われ、高2,中3は鎌倉、中2は川越、中1は上野公園でいずれも班別にテーマを持ち探究学習をしました。1974年から伝統ある中1大町公園自然観察会も天候に恵まれました。更に来年度の中学受験生に向け説明会を対面で実施、熱心な参加者が多く、学園への関心の深さを実感しました。
 さてウェルビーイングは、これからの教育に大切な考え方です。今後5年間の日本の教育基本方針・計画を定める第4期「教育振興基本計画」が中央教育審議会から答申され、近く閣議決定されます。
 第4期基本計画のコンセプトは2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成と共に、日本社会に根差した『ウェルビーイングの向上』としています。即ち①多様な個人の生きがいや幸せとともに、地域や社会が幸せや豊かさを感じられるための教育②幸福感、学校や地域でのつながり、利他、協働、自己肯定感、自己実現等を育む③日本発の調和と協調に基づくウェルビーイングンを発信すること、と述べています。ウェルビーイングは、「身体的・精神的・社会的によい状態であること。短期的幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含む概念」としています。ウェルビーイング(Well-Being)は、1946年WHO憲章の健康の定義として使われ、またSDGsの目標3にはGood Health and Well-Beingとあり「全ての人に健康と福祉を」と訳されています。
 本年度第1回土曜講座の講師の前野隆司慶応大学教授は、ウェルビーイング学会の会長でもあり、この分野の第一人者です。「幸福学:幸せに生きるとはどういうことか」と言う題でウェルビーイングのことを広く分かり易く講義されました。先生は東京工業大学修士終了後、キャノン株式会社でカメラの研究をし、その後留学、大学ではロボットの研究から人間の体と心の研究へ、更にシステム論、幸福学、社会システムデザインなど幅広い分野で活躍されています。ウェルビーイングの研究を幸福学とし、「幸せ」を科学的に分析されて来ました。ウェルビーイングは広義の健康であり、健康、幸せ、福祉を含むもので、「視野の広さ」「やる気」「思いやり」「協調性」「チャレンジ精神」の要素を持つこと、幸せと健康・長寿の関連、幸福感と生産性・創造性の関連、年収と幸福度の関連、幸福学の基礎、人々を幸せに導く製品・組織・コミュニティーについて話され、生徒に強い刺激と感銘を与えていただきました。講演後の質問も活発で、更に理事長室まで来て、熱心に質問や意見を聞く生徒もいました。  生徒の感想の一部を紹介します。
・自分主義になってしまうと、他人と比べたり、金やモノを欲求してしまったり、それに夢中になるとどんどん追い詰められるようになってしまうので、視野を広くしたり、やる気を出したり、協調性、チャレンジ精神、思いやりを大切にすることがとても大事だと強く感じた。 (中学1 年、女子)
・ 幸せを一言で言うと、あまりどういうものかすぐに思い浮かぶ事は無いけれど、幸せと関係する要素がたくさんあることが分かりました。今の状態に満足せず、挑戦したり、人と接したりすることが大切だと思いました。また、物事を考えすぎず、常に楽観的な部分を持っていることで幸せにつながると言うことも分かりました。 (中学2 年、女子)
・ 幸せは自分の行動の仕方によって良くも悪くもできる。幸せとの相関関係を持つものはたくさんあり、自分がこれから生活をしていく中で、少しでも今までの自分の行動を考え、改善していけばより幸せに生活できるのではないかと思った。ウェルビーイングと言う良好な状態という言葉を初めて知り、ハピネスとの違いの話もとても興味深いと思った。 (高校3 年、男子)

 最後に先生の研究から導き出され、今回の講演でも強調された幸せの心の4つの要因は、分かり易く具体的な行動指針であり、紹介します。
 第一「やってみよう」;(自己実現と成長)、やりがいや強みを持ち主体性の高い人は幸せ、第二「ありがとう」;(つながりと感謝)、利他性や思いやりを持つことが幸せ、第三「なんとかなる」;(前向きと楽観)、何事もなんとかなると思うチャレンジ精神とポジティブな人は幸せ、第四「ありのまま」; (独立と自分らしさ)、他者と比べ過ぎず、自分らしさを持っている人は幸せ 
幸せは心の持ちようが大切であり、実践により、健康・幸せになりたいものです。先生にはこの4因子の色紙を書いていただきました。
 *参考資料; ウェルビーイング; 前野隆司・前野マドカ(日経文庫)
  ディストピア禍の新・幸福論; 前野隆司(プレジデント社)
  ポジティブ心理学の挑戦;マーティン・セリグマン(Discover)