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2006.10.01理事長メッセージ

理事長からのなずなメッセージ#10 北欧3ヵ国の底流にあるもの

理事長・校長 古賀正一

千葉県経営者協会 創立60周年事業の北欧視察団(団長 大塚京成電鉄会長)に参加し、8/30~9/9に出張した。有意義な視察旅行であり、百聞は一見にしかずであった。

高福祉・高負担の優良国家への道には、大変な痛みと努力、改革のプロセスがあったと思う。底流には、小国としての苦難の歴史、厳しい自然環境、海外市場なしには生きられない国柄がある。また質素で我慢強い気性、挑戦と創造性、自然を大切に助け合う心、宗教心とノーブレス・オブリージュなどの精神性を見逃すことができない。

この国柄と精神性により教育、医療、年金、介護などの安心の確保と高い税を容認する合意形成ができるのであろう。国民の政府への信頼と信頼に足る政府の透明性の故でもある。25%の消費税、55~60%の所得税に対し、『税金はとられるものでなく政府に預けるもの』との考えである。一部に中堅層の重税感の声も聞いた。財政収支は各国共プラスで健全である。

弱者への手厚い支援は見事であった。フィンランドのエスポー市キロンプスト小中学校では、600人の生徒のうち自閉症などの特別教育のクラスが6クラス(35人)もあり、先生やアシスタントは各クラス4~5人つく。
コペンハーゲンの介護施設も健常者と障害者が一緒の建物で、明るい。昼からビールも可など自由。ストックホルム市のバリアフリー対策は徹底的で予算も大。知的障害者は『外出しないと障害が深まる』とのこと。2010年に世界トップ・バリアフリー市になるというビジョンで、プロジェクトを進めている。

学校は全て公立または国立で、大学まで教育は無償であり、原則私立校はない。フィンランドを例に取れば、日本の中学までが義務教育、その後後期中等教育の普通高校と職業学校があり、高等教育も大学と高等職業専門学校(ポリテクニック)があり複線型。訪問先の学校は、小中一貫校で、20人位の少人数学級で服装も自由。見学した中学3年の社会科では、教科書は母国語で教師は全て英語であり、授業はバイリンガルであった。学校差が少なく、平均値をあげることを重視しているとのこと。上位者は自ら学べということか。
クラブ活動には教師はたずさわらない。教師は全て修士で、尊敬され人気の職業であり、採用時倍率も10倍以上である。

小国で資源も少なく人材こそ全てであり、自国だけでは生きられないが故に、グローバルな視点を重視している。働くために学ぶ、働かねば生きられないという強い目的意識がある。この学ぶ動機づけがPISA学力世界一の基本と見た。母国語をしっかり教え且つ小学生の頃から多言語(母国語と英語、更に第2外国語)を学び、創造性、自立性を重視している。キロンプスト校は、演劇を重視し、表現する力を磨くことを学校の特色としているとのことであった。

日本の教育は、多様性があり、選択の幅は広い。生徒の自立性と本学の第三教育(自ら学ぶ力)を推進し、働くことや生き方を中心とする人間教育を更に学校でも家庭でも注力すれば、北欧とは違った多様性ある人材の輩出が可能である。資源のない日本もまた人材立国であり、教育(改革)は国家の基本戦略である。

環境への取り組みは、先端技術を駆使し、バイオマス、廃棄物、風力発電などクリーンエネルギーと再生可能エネルギーに注力し、地域暖房システムも充実。リサイクル、省資源にも注力し無駄を省いている。古い建物や石畳などを活用し景観を大切にし、落ち着いた雰囲気はうらやましい。夜の照明も暗く、どぎついネオンも少ない。生活はシンプル、ホテルも冷房なしで質素である。物価は高い。女性の活躍が目立つ。フィンランドでは共働き女性95%で、専業主婦5%とのこと。大学は今や女子学生が60%とのことである。

日本の新しい3つの骨太方針、即ち成長力・競争力強化、財政の健全化、安全安心の確保のための施策が北欧では一応解決されている。

日本のよさを生かしつつ、国民の知恵と工夫と忍耐を求め、新安倍内閣が骨太方針を強力に具体的に推進し、弱者にもやさしい、日本らしい中福祉中負担の国を作り上げていくべきと感じた。