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2026.05.29SSH

理科の散歩道 #7 「 コイルで音楽が飛ぶ?―電磁気で味わうワイヤレス技術の原点― 」

高校3年生の物理では、電気や磁気に関する「電磁気」の単元を学びます。
その中で、生徒たちの反応がよい実験の一つに、「コイルを使って音楽の信号を飛ばす実験」があります。
使うのは、20回ほど巻いたコイルを2つ。
これを少し離して、向かい合わせに置きます。
片方のコイルには、手持ちのスマートフォンなどからケーブルをつないで、音楽の信号を増幅器を通して流します。いつものように音楽を再生するだけです。

もう片方のコイルはスピーカーにつなぎます。
すると、スマートフォンからケーブルで直接つながっていないスピーカーから音楽が聞こえてきます。

さらに、コイル同士の距離や向きによって音の大きさが変わることも体感できます。
コイルを遠ざけると音は小さくなり、近づけると大きくなります。
また、コイルの向きを変えると音は弱くなり、互いに垂直にしてしまうと、聞こえなくなります。
生徒の手持ちのスマーフォンから流行っている音楽を流してもらうと、教室の雰囲気は一気に盛り上がります。

この実験の面白さは「音楽が聞こえる」という驚きだけではありません。そこには、電磁気の大切な原理が詰まっています。
音楽は、空気の振動として聞こえますが、スマートフォンの中では電気信号として流れています。その変化する電気信号が片方のコイルに流れると、コイルのまわりに変化する磁場(磁力のはたらく空間)が生まれます。その磁場の変化が空間を通してもう片方のコイルに届き、今度はそのコイルに電流を生じさせます。これが「相互誘導」です。
そして、その電気信号がスピーカーに伝わることで、再び音として聞こえるのです。

つまり、この実験では、
「音楽の信号が、目に見えない磁場の変化を通して空間を渡っている」
ということになります。

私たちは普段、Bluetoothを使って、音楽をワイヤレスイヤホンなどで聞いています。便利な技術である一方、その仕組みはブラックボックスになりがちです。

しかし、コイルを2つ並べただけの素朴な実験を通して、ワイヤレス技術の根底にある「見えないものが空間を伝わる」という感覚を、手触りのある形で体験することができます。

現代の技術は、高度で複雑です。
けれども、その奥には、授業で学ぶような基礎的な物理の原理が息づいています。
物理を学ぶことで、身の回りの当たり前をもう一度見つめ直し、「なぜだろう」「そういうことだったのか」と味わえるようになります。

生徒たちには、物理の授業を通して、世界の見え方が変わるような経験をしてほしいと思っています。
そして、身の回りの技術や自然現象を楽しむための、「物理の眼鏡」をぜひ手に入れてほしいです。

バックナンバー理科の散歩道 #6 「 計算で未来を当てる 一発的中で体感する物理 」